
矢座のトレミー
矢座のトレミーは、星矢たちが戦った白銀聖闘士の中ではかなり弱い部類に入るだろう。
聖衣を装備した状態でありながら生身の星矢にいとも簡単に撃破され、「あっけない」などと言われる始末である。
そんなトレミーだが、彼が物語の進行に与えた影響はとてつもなく大きい。
作中でのトレミーの主な役割はふたつ。
まずひとつは聖域12宮の説明役で、もう一つはアテナ沙織の胸に黄金の矢を撃ち込むことである。
聖域十二宮の説明役
ギリシャのアテネに降り立った沙織一行のまえに現れたのがトレミーである。
全身をローブで覆った姿で登場し、聖域十二宮の説明を始める。
教皇の間までたどり着くには白羊宮から双魚宮までの十二宮を突破しなければいけない事。
そしてそれぞれの宮には最強の黄金聖闘士が待ち構えている事。
神話の時代より誰一人として突破したことのない12宮に、星矢たちが挑まねばならないというワクワク感を与えてくれる。
そこを守護する黄金聖闘士とのバトルにも否が応でも関心が高まるというものだ。
黄金の矢でアテナ沙織の胸を射抜く
そしてトレミーのもう一つの役目・・・城戸沙織の胸に黄金の矢を撃ち込む事もストーリー上では重要な意味を持つ。
そもそも12宮編の主目的は、アテナの化身である沙織が聖域を我が物にせんと企てる教皇と対峙することにある。
沙織がアテナであることを知るものは星矢たちを含めて数えるくらいしかおらず、大部分の聖闘士は教皇派か中立派のどちらかに属していることが多い。
教皇に成りすましている双子座のサガが、聖域に居もしないアテナに度々謁見するという芝居を打っているため、アテナ神殿にはアテナが居るものと信じ込んでいる聖闘士や側近も多いのだ。
ゆえに、多くの者にとって城戸沙織とは「アテナの名を騙る不届きな小娘」という認識だろう。
そんな沙織がビッグでグレートな小宇宙を垂れ流しながら12宮を登っていったら、多くの聖闘士が彼女のことを真のアテナであるとあっさり認めるはずである。
ほとんど戦いらしい戦いもなく、あっさりと教皇の間へたどり着くことだろう。
当然の事ながら、これでは星矢たちの出番も無いためストーリーにならない。
なので、漫画的都合という側面から語れば、沙織に12宮を登らせるわけにはいかないのである。
教皇の命を受けてトレミーが放った黄金の矢は見事(?)沙織の胸に突き刺さった。
沙織を強制的にノックダウンさせ、星矢たちが12宮に挑むというストーリー進行を現出させたのだ。
まさに、「聖域決戦の火ぶたは切って落とされた」のである。
この時点でトレミーは城戸沙織が真のアテナであることを知らない。
知らぬまま息絶えたのである。
トレミーの立場からすれば、如何に教皇の命令に従ったからとはいえ、恐れ多くも使えるべき主の命を危険に晒したわけであるから、例え落命しなかったとしても主殺し未遂の汚名を着ることになる。
(もっとも、当の沙織は優雅な笑みで許すだろうが)
それを思えば星矢に倒されてむしろ良かったのかもしれない。