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クリュサオルのクリシュナ

ポセイドンに仕える海闘士でインド洋の柱を守護する七将軍のひとり。

 

全ての邪悪を刺し貫く聖なる槍・黄金槍(ゴールデンランス)を武器に紫龍と戦った実力者。


 

褐色の肌にロングモヒカンというインパクトのあるルックスで美形キャラとは呼び難いが、明らかにそのじょそこらの量産型ブサイク雑魚顔キャラとは一線を画す。

 

厳めしい口調や態度物腰に加え、攻防両面で紫龍を圧倒する実力を持つクリシュナは、どちらかというと「武人」や「いぶし銀」といったカテゴリーに属するだろうか。

 

顔立ちの系統は山羊座のシュラに、醸し出す雰囲気は先代山羊座の聖闘士以蔵に通じるものがあるようにも思える。

全てを貫く黄金の槍

クリシュナは海底神殿に乗り込んだ星矢たち主役陣の3戦目の敵キャラとして紫龍と対戦した。

これより先に登場したシーホースのバイアン、スキュラのイオは、聖域編に次ぐ新章の新たな敵としては実力面においてやや不足の感はあったが、このクリシュナは相当の猛者である。

彼の強さは同じ七将軍のシードラゴン(カノン)やリュムナデスも一目置いている節があるが、作中描写を見る限りそれも納得といった所だ。




 

クリシュナのメイン武器は黄金の槍である。

 

長柄の武器の代表格である槍の基本攻撃は刺突だが、この黄金の槍は攻撃時に巻き起こる空気の流れだけでも相手を切り裂く威力を持つ。

 

穂先には左右非対称の小刃が設けられており、その形状は変則型の十文字槍もしくは戟に近い。

実際の歴史においてもこの手の武器は相手の喉笛を掻き切るのに適している。

 

槍であるためリーチも長く、相手の間合いの外から攻撃できる利点がある。


 

黄金聖闘士の血によって蘇った龍星座の盾をあっさりと貫いている点を観ても、その攻撃力は恐ろしく高い。

 

最大奥義を放ってもペガサス、アンドロメダの聖衣を破損させられなかったバイアンやイオと比べ、黄金の槍の凄まじさは相当なものだ。

 

クリーンヒットしないまでも空気の流れによる切り傷程度は与えられるので、クリシュナと相対した敵はたまったものではないだろう。


 

事実、紫龍も黄金の槍の前には防戦一方に追いやられた。

 

防げない上にかわし続けてもダメージが蓄積していつかはやられてしまう。

その上叩き折ることも出来ないのでほとんどお手上げである。

聖剣VS黄金の槍

紫龍とクリシュナの戦いの焦点は、紫龍の右腕に宿る山羊座のシュラの魂・聖剣の覚醒にある。

聖域編でアテナのために命を賭して戦う紫龍の心意気に、教皇派であったシュラは胸を打たれ前非を悔いた。

そして自身の必殺技である聖剣エクスカリバーを紫龍に託したことが、クリシュナとの戦いの最中に明らかになる。

それは同時に、全てを切り裂く聖剣をもって黄金の槍を打ち破る構図が仄めかされたことを意味するのだ。

聖剣の凄さを演出するには斬られる対象もまた相応の物でなくてはならない。

大根などを切ってもサマにならないのは当然だ。

 

それゆえに黄金の槍は「全てを貫く」とか「神でも折れない」といった設定に仕立て上げられたのだろう。


 

ただ、戦いの流れはそう簡単には進まなかった。

安直に、主役キャラピンチ → 味方援護(シュラの魂) → 不屈の闘志で逆転 にはならなかったのである。

 

紫龍の小宇宙の高まりで黄金色と化した龍星座の盾は、クリシュナの黄金の槍を止める事には成功したものの、そこからの反撃は失敗に終わる。

 

聖剣が不発に終わり黄金の槍を一刀両断に出来なかったのだ。


 

理由として考えられるのは以下の通りだろう。

 

もし上記の流れで紫龍があっさりと黄金の槍を破っても、フォーカスされるのは紫龍ではなく「シュラの聖剣」である。

読み手の感想が「紫龍すげえ!」ではなく「やっぱり黄金聖闘士強え」になってしまうのだ。


 

言い換えれば、主役キャラの1人である紫龍の実力によって難局を打開する必要がある。

それに青銅の紫龍が黄金のシュラの技をあっさりと繰り出すのも味気ない。

 

だからこそ、「小宇宙を限界まで高めて右腕に眠る聖剣を目覚めさせる」というステップを挟んだのだろう。


 

自身を死と紙一重の状態に持っていくために、紫龍はもはやお家芸ともなりつつある「聖衣解除で裸」の選択をする。

そして命ギリギリ極限の状態で小宇宙を高めに高め、ついに聖剣を目覚めさせることに成功したのだ。


 

紫龍の放った聖剣は黄金の槍のみならずクリュサオルの鱗衣上半身をも一刀のもとに断ち切った。

クリシュナの真の力 クンダリーニ

聖剣覚醒、黄金槍撃破のふたつが描写された以上この戦いも終わりかと思いきや、クリシュナはさらなる力をもって紫龍の前に立ちはだかったのだ。

それが宇宙的エネルギー・クンダリーニである。

その原理は作中でお馴染みの小宇宙だが、クリシュナにとってはクンダリーニの呼称の方が正しき由来のようだ。

ちなみに同じ海闘士のイオはハッキリと「小宇宙」というセリフを口にしているし、以前は聖闘士側に身を置いていたカノンやアイザックにとっても「小宇宙」の呼び方の方が馴染みがあるだろうから、「クンダリーニ」の言い方を用いるのはクリシュナだけだと思われる。



 

ともかく、黄金の槍を折られたことでクリシュナは真の力を解放した。

クンダリーニの力によって目に見えぬ壁が形成され、柱を破壊せんとする紫龍の行く手を拒んだのだ。

 

紫龍にしてみれば、正に背水の陣の覚悟で黄金の槍を折ったにもかかわらず、戦局はそれまでとは違った形で悪化した事になるだろうか。


 

座禅を組んだ姿勢で宙に浮くクリシュナの姿は一種の神々しささえも感じる。

そのスタイルと背景イメージがどことなく乙女座のシャカに似通っているからかもしれない。

 

ただやはり褐色肌にモヒカンという異相に加えて槍を扱っていたせいか、クリシュナの方がより戦闘的な色合いが前面に出ている気がしないでもない。


 

宙に座し「カーリーの時代」を説くクリシュナとそれを見上げる形の紫龍という構図が、さながら戦いの優劣を表しているかのようだ。

 

クリシュナは説く。

今の地上は汚れ切っているためポセイドンの力で一度洗い清め、その後に新たな世界を築くのだと。


 

基本的に聖闘士側と海闘士側の戦いはそれぞれの理想や信念の違いによるものであり、現代国際社会の政治理念や宗教相違による戦争と大して変わりはない。

それぞれに大義名分があるのだ。

 

クリシュナにとってはポセイドンの覇業こそが正義であり、信じるべき道である。

世界中に巻き起こっている大雨や洪水も理想郷づくりのプロセスに過ぎず、アテナとその聖闘士はそれを妨害する邪悪な存在という事になる。


 

むろん紫龍たち聖闘士も地上の平和のために戦っているので、ポセイドンや海闘士の行動を止めねばならないのは言うまでもない。

結局は異なる理念のぶつかり合いでしかないのだ。

 

このわずかな舌戦のシーンでもクリシュナの高潔さが窺える。

戦場でまみえる敵であってもその闘士を称えるなど、クリシュナという男の心には堅くて太い芯が備わっているのがよく分かる。



 

ここで紫龍は廬山龍飛翔を久方ぶりに披露。

ジャミールの聖衣の墓場で使って以来長らく出番の無かったこの技だが、しかしクリシュナの防壁は打ち破れない。

 

おそらく、クリシュナの壁は容易く突破できないという認識を読者に植え付けるため、そしてこの後に放つ昇龍覇の前フリとして龍飛翔が使われたのだろうか。


 

クリシュナの口から、クンダリーニの源は人間の体内にある7つの座(チャクラ)である事が語られる。

聖闘士でいうところの生命点であり、これによってこのバトルにおける紫龍の指針が「チャクラを見つけ出して断つ」事に絞られた。

 

ご丁寧に攻略のヒントを教えてくれるのは些かご都合主義に過ぎるが、そうでもしなければ紫龍には反撃の糸口さえ見えないので仕方がないだろう。

強さと高潔さを併せ持つクリシュナの魅力

しかしクリシュナもただ座して守りを固めているわけではなく、大いなる光マハローシニーという技を放つ。

これがどのような効果を持つのか、物理技なのか、その辺に関する説明が特に無いので今一つ技の概要が掴みづらい。

イメージ的にはムウのスターライトエクスティンクションに似ているだろうか。

 

黄金の槍を用いて繰り出すフラッシングランサーもそうだが、クリシュナの奥義は光系統のようだ。



 

だが紫龍も小宇宙フルパワーの証である背中の昇龍を浮かべ、このマハローシニーを耐えきった。

 

なおこのシーンがあるせいで、先の聖剣覚醒の時の紫龍は全力ではなかったのかという齟齬も生じた。

このバトル最大の見せ場であるはずの聖剣のインパクトが若干薄れてしまったのだ。


 

ともかく紫龍は自身最大奥義の昇龍覇を放つが、それすらもクリシュナの防壁にはじき返されてしまう。

 

クリシュナの鱗衣上半身は破損しているにもかかわらず、半分生身でもこれほどの防御力を誇るクリシュナはやはり強い。

その主力は黄金の槍であることは間違いないが、クンダリーニによる防壁も柱の守護という観点に適っている。

攻防ともに高い水準にあるのは確かだろう。


 

さらに不発に終わったかに見えたマハローシニーだが、紫龍の視力にダメージを与えていたようだ。

ペルセウス星座のアルゴル戦で一度失明した紫龍だが、このクリシュナ戦で再び視力を失う結果となってしまったのだ。

ちなみにこのマハローシニーによる失明が回復に向かうのは続編のNDにおいてである。



 

攻撃の決め手を欠き、さらには視力までも失った紫龍は最後の力を振り絞って小宇宙を燃やし、クリシュナの体中央縦一直線に並ぶチャクラを見破った。

まさしく聖剣で一刀両断にしてくださいと言わんばかりの配列である。

 

漫画的都合が働いている感はあるものの、紫龍渾身の聖剣でクリシュナのチャクラは断たれた。


 

ここまで圧倒的な強さを見せ続けたクリシュナであったが、最後は紫龍の不屈の闘志の前に敗れたのだ。

 

その最期に「見事」と紫龍を称える一言を添えるのが何とも潔い。

戦場で干戈を交え、その果てに討ち死にする武者の気概に通じるものがあるかもしれない。



 

クリシュナを倒したとはいえ紫龍のダメージも相当なものだった。

 

バイアン、イオを倒した星矢と瞬は次の柱に向かう余力があったのに対し、紫龍はどうみても満身創痍である。

視力を失ったため貴鬼の助力が無ければインド洋の柱の位置すら掴めぬ有様であった。

 

それだけクリシュナとの戦いが激しかった証でもある。



 

「黄金聖闘士の足元にも及ばない」との評価を下されたバイアン、戦闘描写からそれと大差ない実力であろうイオに比べると、このクリシュナという男は七将軍のなかでも正統派の実力者と言える。

 

もちろん地力では黄金聖闘士には及ばないだろうが、ムウと対峙したパピヨンの様にそこそこいい勝負に持ち込めそうな力はあると思われる。


 

もしも本家聖剣の使い手シュラや、似たような背景イメージ技を持つシャカと戦ったらどんな感じになるのか、それはそれで興味深い。

 

もちろんこの2人が相手ではさしものクリシュナでも勝ち目は薄いが、シュラは多分キッチリと介錯を務めるだろうし、案外シャカとは仏法や禅問答に終始した舌戦になるかもしれない。

 

そのような妄想が抱けるのも、全ては強さと清廉さを併せ持つクリシュナの魅力ゆえである。

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