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スキュラのイオ

ポセイドンに仕える海闘士で南太平洋の柱を守護する七将軍のひとり。

 

ギリシャ神話に登場する魔物スキュラ(上半身は美女で下半身は6つの獣)のごとく6種類の聖獣拳を得意とする多芸キャラ。

スキュラの化身!

​だが技の描写が抽象的すぎて…

海皇ポセイドン編の海底神殿2戦目の敵として瞬と戦う。

美女と6種の野獣の幻影を見せて登場し、聖獣拳を立て続けに披露して瞬をボコボコに痛めつけた。

 

ひとつひとつは手加減して放ったにも拘わらず、そのすべてがネビュラチェーンの防御を掻い潜り瞬をいきなり劣勢に追い込むほどの強さを見せつける。


 

聖獣拳は鷲、狼、蜂、大蛇、コウモリ、熊の6つで、それぞれパワーや刺突、絞め技に吸血など技の性質が異なる。

 

この漫画に登場するキャラの戦闘スタイルは大概何かしらひとつの個性に集約しているが(パワーの檄、拘束のライミ、超能力のムウ、凍気の氷河など)、イオは聖獣拳を持つがゆえにその戦い方も多様性があると言える。

 

これより先に登場したシーホースのバイアンは実際の強さはともかく技の規格外な描写をみせたが、このイオは手数の多さを印象付けた海闘士であろう。

 

技のバリエーションの多彩さは作中でもトップクラスと言える。


 

聖獣拳のひとつひとつは確かに強力であり、瞬もイオのことを「スキュラの化身」とまで述べているが、しかしどうしても小技の域を出ない感が漂う。

 

その理由のひとつは「聖闘士に同じ技は通じない」を証明するがごとく、2度目に放たれた聖獣拳を瞬がきっちりとネビュラチェーンで対応したこと、そしてもうひとつはイオ自身が聖獣拳を超える最大奥義ビッグトルネードを持っている事だろう。

 

それに加えて聖獣拳はイオが装備するスキュラの鱗衣の各パーツとリンクしているようだ。

 

蜂の一刺しは右拳、大蛇は左腕、大熊の一撃は膝といった具合である。

 

ということは鱗衣が破損したりイオが生身のケースでは聖獣拳は使えないのだろうか。


 

そして聖獣拳の描写が抽象的過ぎて今一つその効果がハッキリとつかめない。

 

ダメージを受ける瞬と獣の背景イメージが描かれているだけなのだ。


 

蜂のひと刺しクィーンビーズスティンガーはスカーレットニードルの劣化版とも言うべき刺突攻撃、巨大熊の一撃グリズリースラップは重くて強力な物理攻撃というのは分かる。

 

問題は残り四つだ。

 

鷲の爪イーグルクラッチと狼の牙ウルフズファングは共にスピード感あふれる攻撃のようだが技の性質が被っているようにも思える。

 

技名から推察すると前者が引っかき攻撃で後者が噛みつき攻撃ということになるが、鱗衣の部位でそれらをどう再現しているのかさっぱり分からない。

 

もっと分からないのは大蛇の締め付け技サーパントストラングラーだ。

 

イオの左拳から放たれる技だが、どうやって瞬の全身に絡みつき締めあげているのかその原理が不明である。

 

コブラツイストでもかけなければとても無理だ。

 

敵の直線的な攻撃を避ける特殊レーダー機能を搭載した吸血コウモリのバンパイアインヘイルはもはや考察不能のレベルである。

 

背中の翼の部位から放たれる技だが、一体何が相手の攻撃をかわし、一体何が相手の血を吸っているというのだ。


 

鱗衣のパーツが獣の幻影を発しているならまだ分かるが、聖獣拳を撃つ際のイオの攻撃モーションは明らかに物理攻撃のそれであるため、やはり直接拳をぶち込んでいると思われる。

 

作中でも技名を叫ぶ+イメージ背景=意味不明という図式に該当するキャラは多いのだが、イオは技の数が多いだけにそれが際立ってしまうのだ。

鎖で聖獣拳に対応する瞬

​しかし、こちらの描写も抽象的…

この6聖獣拳にたいして瞬のチェーンはそれぞれに対応した陣形を展開する。

 

蜂には蜘蛛の巣、ワシには捕獲ネットといった具合に変幻自在のバリエーションを見せた。

 

しかし漫画上の描写は獣イメージ画像と様々な形で展開する鎖が交差するだけなので、ネビュラチェーンがいかなる効用を以てイオの拳を封殺したのかの説明が皆無なのだ。

 

唯一納得出来るのは楕円軌道を描くブーメランショットでイオの背中パーツを粉砕するシーンくらいであろうか。


 

大蛇を飲み込むスパイラルダクトや狼を仕掛け罠にはめるワイルドトラップなどは一体何が起きているのか、そしてどういう原理でスキュラの鱗衣を粉砕したのかがまるで分らない(笑)

 

そもそも瞬は一体誰と戦っているのすら分からなくなる。

 

この戦いを傍目から見たらどう映るのか、むしろそちらに興味が湧くくらいだ。


 

極めつけは膝から繰り出される大熊の一撃グリズリースラップに対して瞬が放った技は、相手の全身を縛って動きを封じるグレートキャプチュアーである。

 

それまでは聖獣拳を封じるとともにスキュラの鱗衣の各部位を破損させたチェーンだが、この技で鱗衣はほぼ全壊する。

 

言いかえれば、もしもイオが最初にグリズリースラップを使っていたら、全身を拘束されて他の聖獣部位もろとも鱗衣は粉砕されていた可能性が高い。



 

作者としては多彩な聖獣拳を繰り出すイオの強さと、それを封じるネビュラチェーンの真価を描きたかったのかもしれないが、技の数が多いためページの都合でそのひとつひとつに焦点を当てる余裕はなかったのだろう。

 

そのため瞬対イオの前半戦は双方とも良く分からない技を出し合う展開となり、その細部は読者が想像力を広げて解釈せねばならない結果となった

防御に徹したまま勝った瞬

もしここで戦いのケリがついていたら、イオは「多彩な技を持つがそのひとつひとつが良くわからんキャラ」という評価で終わっただろう。

 

だが彼の魅力が面を覗かせるのはこの後のシーンにある。

 

グレートキャプチュアーを力ずくで振りほどき、自身の最大奥義ビッグトルネードを見せた。

 

両の手を旋回させながら前方に差し出し、相手を大きな渦潮の流れに巻き込むかのように回転させて引きちぎる大技である。


 

イオ自身が「スキュラの真の力」と言っているように、その威力は聖獣拳よりも遥かに上なのは言うまでもない。

 

彼はさらなる奥の手を隠し持っていたわけだが、これによって聖獣拳はいわばジャブでこのビッグトルネードがフィニッシュブローであることが判明したのだ。


 

だがそのビッグトルネードも強力なのは間違いないがフィニッシュブローとしての威力には疑問が残る。

 

これを食らった瞬は何とか立ち上がるのだが、これは主役キャラのお約束なのでまだ分かる。

 

だが瞬はイオには見向きもせずに南太平洋の柱を砕くことに意を注ぐのだ。


 

瞬は「僕の目的はあなたを倒すことではなく柱を砕くこと」と口にするが、それをイオは「敵にとどめを刺せぬ甘さ」と一笑に付した。

 

そしてビッグトルネードを二度三度と放つが、そのたびに瞬は立ち上がり傷だらけの体で柱を砕こうと試みる。


 

確かに戦場で余計な情けを見せる事は甘さそのものであり、それが瞬の弱点でもあり魅力でもあるのだが、その甘い相手に一方的に攻撃を仕掛けながらも倒しきれないイオの技の威力もまた甘いと言える。

 

3度も放ったビッグトルネードは全力でなかったとはいえ、完全ノーガードの相手をKO出来ていないのだ。


 

戦いとは言え出来る事なら相手を傷つけたくない瞬と、戦場で目的を遂げるには目の前の敵を倒すべきだと主張するイオとの対比を描いた結果そうなってしまったのだろう。


 

イオは全小宇宙を高めてとどめのビッグトルネードを放つが、同じく小宇宙を限界まで高めた瞬を前にして二つに割れ完全に無効化されてしまった。

 

そして黄金色の輝きを発するアンドロメダの鎖によって再び縛りあがられてしまう。

 

ここで完全に勝負はあった。

 

この戦い全体を通してみても、瞬は降りかかる火の粉を払っているだけでイオに対しては特に攻撃意志を見せていない。

 

黄金の血の加護もあったのは事実だが、結果としては鎖で防御に徹しつつ勝負を決めたのだ。

 

12宮編で魚座のアフロディーテとの名勝負を繰り広げた瞬の次なる相手として登場したイオであったが、先のバイアン同様彼の実力も黄金聖闘士には遠く及ばない事がハッキリしたのである。

私も命を懸けてあの柱を守っているのだから…

イオの戦闘力を無効化した以上、瞬の目的は柱の破壊のみである。

自分の小宇宙を限界以上にまで高め特攻しようとする瞬だったが、グッドタイミングで貴鬼が天秤座の聖衣を運んで駆けつけてきた。

 

これより先にバイアンの守護する北太平洋の柱は天秤座の武器を手にした星矢の手によって砕かれている。

 

そして今まさにイオの眼前で自身の守る柱が砕かれようとしているのだ。



 

イオ最大の見せ場がついにやって来る。

 

瞬の手にした双節棍(ツインロッド)が南太平洋の柱めがけて放たれた正にその時、イオは自身の身を投げだし柱を守ろうとしたのだ。

双節棍を我が身でブロックしたかに見えたが、星をも砕く天秤座の武器である。

 

イオの決死の行動も空しく南太平洋の柱は破壊された。

 

敵である瞬の腕に抱かれ、息も絶え絶えのイオは語る。

 

「わたしも命を懸けてあの柱を守っているのだから」と。

 

瞬が自爆覚悟で柱を破壊しようとした姿に、敵味方を超えた戦士の矜持を感じたのかもしれない。

 

だからこそ「敵にとどめを刺せぬ甘さがある限り君もいつか死ぬ」と瞬に向けて最後に忠告を残したのだろう。



 

散り際の美しいものはそれだけで印象に残る。

 

イオの戦闘力はさておき、その忠誠心の高さや任務に対する責任感は賞賛すべきものがある。

 

瞬も出来る事ならイオに死んでほしくはなかったはずだ。


 

柱が砕かれたことにより地上の水位が下がり、小雨が降り注ぐ中、瞬の腕の中でイオは微笑みを称えたまま息絶えた。

 

イオが最期に見せた忠義心ゆえに、このバトルは海皇編の中でももの悲しくも美しい幕引きとなったのである。

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